
今こそ行動を起こす時:SDGs達成のためにサステナブル投資が果たし得る役割
本レポートでは、SDGs達成に向けた取り組みと資金調達ギャップの現状を明らかにした上で、このギャップを埋めるために機関投資家が果たし得る役割を整理しています。
エグゼクティブサマリー
国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、世界的な開発課題に対処し、持続可能な未来を構築するためのグローバルな取り組みの主軸と言える。しかし、これまでのSDGs達成に向けた取り組みは、利用可能な資金によって進捗が制限されてきた。SDGsの策定当時、その達成のために必要な投資額は年間5~7兆米ドルとする推定なども見られた中、2022年時点では、OECDは必要な投資額と実際の投資額の資金調達ギャップが約3.9兆米ドルあると試算している。
持続可能な発展が重要視される中、投資行動においても環境や社会の要素を考慮することの重要性に対する認識が高まり、サステナブル投資戦略を活用した世界全体の運用資産残高は2020年時点で約35兆米ドルと推定されている。一見するとSDGsとの整合性が高いと思われ、SDGs達成への貢献に期待が寄せられるサステナブル投資戦略だが、前述の資金調達ギャップを埋める上で果たし得る役割はこれまであまり明確にされてこなかった。
本報告書では、SDGs達成に向けた取り組みと資金調達ギャップの現状を明らかにした上で、機関投資家が果たし得る役割を整理している。主な内容は以下の通りである。
- 機関投資家が目指す資産価値の長期的な安定と向上は、例えば、投資先事業やプロジェクトでの健康で教育機会を得られた労働力へのアクセスや、事業展開を可能とする安定した気候や高品質のインフラなど、SDGsに盛り込まれている内容にも依存している。すなわち、機関投資家にとってSDGsへの貢献は投資先の持続的な成長、さらには経済的な投資リターンの向上にも繋がる可能性があるため、SDGs達成に向けた資金投入は本来の機関投資家の目的と合致していると言える。
- しかし、SDGs達成に向けた資金調達ギャップを埋める上で機関投資家が役割を十分に発揮するためには、いくつかの課題がある。これを緩和するためには、国や地域レベルでの明確で調整のとれた政策的な支援が必要となる。具体的には、低所得国に向けた投資のリスク回避、国や地域単位のサステナブルファイナンス政策とSDGsの整合性の強化、各国スチュワードシップ・コードへのSDGsの統合、金融業界におけるSDGsへのオーナーシップ促進、などが含まれる。このような各種政策の導入や整備を促すため、政策立案者と対話することは機関投資家が果たし得る役割の一つと言える。
- 政策立案者と対話することに加え、投資家は自らの投資行動を通じてSDGsの実現に貢献することができる。具体的には、SDGsを投資戦略に組み込むことを明示的にコミットした上で、投資対象企業への個別または協働でのSDGsに沿ったエンゲージメントの実行、プライベートエクイティやグリーンボンドなどを活用したインパクト投資、サステナブルなインフラ投資などが効果的な手法として挙げられる。
- SDGsに代表される持続可能な未来を構築する上で直面する課題の大きさと、投資手法や投資対象の多様性を踏まえると、機関投資家は単一的ではない行動を検討することが重要と考えられる。本報告書では、こうした行動の候補を「機関投資家への行動の呼びかけ」にまとめ、その行動を促す一助となることを目標としている。
動画
ご紹介ビデオ
MUFGアセットマネジメント・サステナブルインベストメントの光谷が、Chronos Sustainabilityの岸上有沙さんと、本レポートの内容について簡単にご紹介します。
スクリプト
光谷 健:
皆さん初めまして。
三菱UFJ信託銀行サステナブルインベストメント部の光谷でございます。
この度、MUFG ファーストセンティア サステナブル投資研究所では、「今こそ行動を起こす時 SDGs達成のために、サステナブル投資が果たし得る役割」というレポートを発行致しました。
ご存じのように、当研究所は、MUFGとファーストセンティアの協働のイニシアチブとして、2021年に設立されております。その目的は、サステナブル投資の発展をサポートするテーマについて、独立した立場から 調査・研究を行い、リサーチ情報を広く皆様にお届けする、ということにあります。
今回の動画では、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議のメンバーなど、独立したコンサルタントとして、この分野で幅広くご活躍されている、岸上有沙さんとご一緒に、このレポートの中身について、簡単にご紹介したいと思います。
まず、このレポートのテーマですが、国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGs、Sustainable Development Goalsの達成に向けて、機関投資家やサステナブル投資が果たし得る役割について、まとめました。
SDGsは、我々人類が持続可能な世界を2030年までに実現するために、2015年に合意された重要な国際目標であり、皆さんも耳にされることがますます増えてきていると思います。今年2023年は、その達成期限までのちょうど折り返し地点にあたります。
ただ、その達成に向けた取り組みは、資金が十分に供給されていないなど、順調に進んでいないと言われております。具体的には、SDGs達成には年間、5兆から7兆ドル、1ドル140円換算で700兆から1,000兆円もの巨額の投資が毎年必要であるとされておりますが、必要な投資額との資金調達ギャップは、年間でその半分以上の約550兆円に達しているとも、OECDでは推計しています。
一方、金融業界では、昨今、サステナブル投資を行う動きが広がっており、様々な定義はございますが、世界のサステナブル投資額は、2020年時点で約5,000兆円まで増加していると推計されています。
サステナブル投資の拡大自体は、SDGs達成に向けた取り組みの資金不足を解消するものとして、大きな期待が寄せられておりますが、これまでサステナブル投資がその資金不足の解消にどの程度貢献するのか、あまり詳しいことはよく認識されてこなかったと思います。
この報告書は、その問いに答え、そしてサステナブル投資、及び機関投資家がSDGsの達成にいかに貢献できるかについて、4つのセクションにわけてご説明しています。
1つ目がSDGs達成に向けた取り組みと資金調達ギャップの状況、
2つ目が資金調達ギャップに対処するための政策措置について、
3つ目がサステナブル投資とSDGsの関係、
そして最後に機関投資家が取り得る行動について、です。
今回のレポートはChronos Sustainability社にもご協力いただきましたが、その中で岸上さんには、レポートの内容に関するアドバイスを頂き、そして翻訳にも多大なご協力を頂きました。限られた時間ですが、いくつかお伺いしていきたいと思います。
早速ですが岸上さん、今回のレポートは、どのような読みどころや、特徴があると思いますか?
岸上 有沙:
ありがとうございます。このレポートは、4つのポイントがあると感じています。
- SDGs達成に向けて資金提供が必要ということはよく耳にするが、改めてなぜ機関投資家の力が必要で、そして機関投資家にとってのメリットがあるか、という点を整理しています。
- また、SDGs達成に向けた資金ギャップを埋めるために本当に機関投資家が役割を果たしうるのか、その課題点を客観的に整理して、その課題の解決につながる各国の取り組みを整理しています。
- その上で、機関投資家が具体的に取れる行動を、「Call for Action」、「投資家への呼びかけ」という形で整理しています。
- また、今回のレポートは和訳もされていますが、日本だけでなく各国の機関投資家を始めとした投融資や政策関係者を読者として想定しています。その中で、より機関投資家に近いところで言えば金融庁や各金融に関連した協会でもSDGs推進を積極的に行っている日本の状況は、実は国外ではあまり知られていないかもしれません。正直まだ機関投資家による活動は限られていますが、国全体としての日本の取り組み方も一例として伝えていることも、このレポートの特徴の一つと言えるかと思います。
光谷 健:
なるほど、そうですね。
私も、完成したレポートを改めて読んで思いましたが、ESG投資やサステナブル投資と、SGDsの関係について、大変よく纏まったレポートだな、という印象を持ちました。
実は私どもMUFGグループの運用会社5社で、MUFGアセットマネジメントという合同のブランド名を使っております。そして、グループでの サステナブル投資の更なる進展と、投資先企業へのエンゲージメント強化を目指して、この春、私が所属するサステナブルインベストメント部が 新設されまして、既に活動を開始しております。
その最大の目的は、日本有数の機関投資家グループとして、どうしたら お預かりしている運用資産の価値を長期的、持続的に成長させることが できるか、という点にございます。
よく、SDGsの達成はとても良いことだとは思うが、それと投資との関係がよく見えない、というご意見を伺うことがあります。
ただ、このレポートにも記載があります通り、企業はますますグローバルに事業を展開しております。
そんな中で、投資先の事業やプロジェクトで、健康で十分教育を受けた 労働力にアクセスできる、ということは大変重要だと思いますし、何より安定した気候変動の状況や、高品質のインフラストラクチャ―といった、SDGsに盛り込まれている内容にも大変依存していると言えると思います。
私はこのレポートを読みながら、SDGsへの貢献は、投資先企業の持続的な成長に繋がる可能性が高いため、機関投資家にとっては大変重要なことだなと、改めて思った次第です。
一方で、さきほど、機関投資家がSDGs達成に向けた資金ギャップを埋める上での課題整理を、投資家目線で行っていることも、本レポートの特徴の一つとして挙げて頂きました。
私もこの問題、SDGsを達成するための膨大な資金ギャップをどう解消 するのかは、なかなか一筋縄ではいかないな、という印象も改めて持っています。
例えば、ハイリスクになりがちな発展途上国に向けた投資リスクをどうマネージするのかとか、サステナブルファイナンス政策にどうこのSDGsを取り込んでいくのか、そしてスチュワードシップコードとSDGsの関係など、今後様々な議論が必要になりそうですね。
岸上 有沙:
そうですね。サステナブルファイナンス全体に言えることですが、人の雇用や経済活動が気候変動への対応トレードオフの関係にならないか、日本を含めた先進市場でのSDGsへの取り組みに集中しすぎることで、他の国への意図しない影響がないかどうかなど、実践の上で考慮しなければならないことが、簡潔ながらに複数点取り上げられていることも、このレポートの実用性を上げていると思います。
光谷 健:
ありがとうございます。
岸上さん、最後に、今後機関投資家には何を期待していきたいですか?
岸上 有沙:
私個人、というよりも、このレポートの作成に携わった一人として、本レポートにまとめられた投資家への呼びかけの内容を4点に分けて紹介させてください。
- 一点目は、各投資機関で、SDGsの達成と日々の運用の関係性と重要性を認識することです。MUFGとFirst Sentier Investorsが共同で支援するこの研究所が、この問題に焦点を当てて世に問うレポートを出されたことは、大変意義のあることだと考えています。
- 2点目として、SDGsの達成に向けた直接投資です。これは、先ほど挙げられた課題に留意しつつも、プライベートエクイティやインフラ投資などで、包括的な視点での投資行動が求められていると思われます。
- 3点目は、投資対象に対するエンゲージメントです。これはアクティブ運用を行っている投資家はもちろんですが、昨今増え続けているパッシブ投資においては、なかなか投資対象をすぐに変えることができないからこそ、既存の投資対象の行動改善に向けたエンゲージメント活動は重要と考えられます。
- この2点目と3点目は、こちらは、PRIが掲げる広義のインパクト投資、IFSI、Investing for Sustainable Impactともつながる考え方かと思います。
- そして4点目は政策策定者に対するエンゲージメントです。SDGs達成に向けた取り組みが最も必要となる市場での投資環境の整備が未熟な場合もあり、そうした時には政策策定者へのエンゲージメントは重要となります。また、先進市場においても、長期目線の投資家の行動を整備する各国のスチュワードシップコードとの位置づけなど、整理を行うことで行動の加速が期待されます。
この4点に関して、このレポートの作成を支援されているMUFG、そしてFirst Sentier Investors社の今後の取り組みにも期待したいと思います。
光谷 健:
ありがとうございます。
特にSDGsに沿った幅広い視野で、長期的な企業価値の向上につながる ようなエンゲージメントを行うべきという点は、我々が目指すものとも 大いに重なりますので、これからも十分意識していくべき部分だと改めて思いました。
岸上さん、本日はどうもありがとうございました。
この報告書が、世界のSDGs達成に向けて、少しでもお力になれれば幸いでございます。
皆さんもぜひ、レポート本文もご覧ください。