
サステナブル投資: ファンド・ガバナンスの現状と課題解決への経路
ウェビナー
世界のサステナブル投資ファンドの運用資産残高はわずか3年間で4倍に膨れ上がりました。この成長に伴い、サステナブル投資に対する新たな規制やアプローチが次々と導入され、定義や開示要件にも変化が生じています。このように急速に変化する環境において、ファンド・ボードの理事は以下の点に立ち向かっています。
- 規制当局による監視の強化やグリーンウォッシングのリスクを軽減する方法
- サステナブル投資に関するファンド・ボードの監督責任について規制当局の期待が明確でない状況
- サステナブル投資に関する十分な専門知識を確保し、強固な監督のために活用できるようにすること
2022年10月13日に実施された本ウェビナーでは、このような急速な変化がファンド・ボードに与える影響、ファンド・ボードが直面している課題、および投資家の信頼を維持するためにファンド・ボードがどのように専門性とガバナンスを強化できるかについてまとめた私たちのレポート(サステナブル投資: ファンド・ガバナンスの現状と課題解決への経路)の調査結果について議論しました。
パネリスト:
- シーナ・ゴードン-ハート
The Directors' Office パートナー - ウィル・オウルトン
First Sentier Investors 責任投資グローバルヘッド - クレア・ウッド
First Sentier Investors プロダクトグローバルヘッド - ブランドン・ホロウィッツ
Fund Boards Council シニアアドバイザー兼非常任理事 - ヴェリーナ・カラジョヴァ
MUFG ファースト・センティア サステナブル投資研究所 所長
動画
Japaneses subtitles
スクリプト
ヴェリーナ・カラジョヴァ (VK):
みなさま、こんにちは。本日はご参加いただきありがとうございます。
MUFG ファースト・センティア サステナブル投資研究所 所長のヴェリーナ・カラジョヴァと申します。
本日のウェビナーのモデレータを務めさせていただきます。
このウェビナーでは、当研究所のレポートである「サステナブル投資:ファンド・ガバナンスの現状と課題解決への経路」について議論してまいります。
タイトルからもおわかりの通り、本日はサステナブル投資がファンド・ボードの理事にとって気になるトピックなのか、また、もし、そうであるならば、どのような意味合いでそうなのか、とういうことについて論じたいと思います。
本論に入る前に、本日の進め方とご連絡事項をお伝えいたします。
本日は、まず、ファンドボードカウンシル(FBC)のブランドン・ホロウィッツさんにレポートの概要についてお話しいただきます。
それに続いて、パネル・ディスカッションを行います。
そして、最後に皆さまからのご質問にお答えする時間をご用意しております。
なお、本日のセッションは聞き取り専用モードで行います。
ご質問については、Q&A機能を使ってご提出ください。
また、このウェビナーは録画され、当研究所およびファンドボードカウンシルのウェブサイト、そしてソーシャルメディアで公開する予定です。
お話を進めていただく前に、MUFGファースト・センティア投資研究所について、当研究所がどのような研究を行っているのか、そして、このトピックがなぜ調査に値すると考えたのかについて少しお話させていただきます。
当研究所は比較的新しい組織です。
ファースト・センティア・インベスターズと三菱UFJ信託銀行により2021年に設立された当研究所は、掘り下げた調査と理解が進むことによって役立つと思われるサステナビリティ関連の重要課題について、認知度を高め、行動を促すことを目的としています。
当研究所の最初の二つのレポートでは、マイクロプラスチックとマイクロファイバーによる環境汚染について調査し、何らかの実践的な解決策および具体的手順を提供するよう努めました。
本日、サステナブル投資ファンドのボードによる監督についてのレポートを発表できたことを喜ばしく思っております。
この数年でサステナブル投資が目覚ましい成長を遂げ、それと同時に関連する規制の水準も高まっていることは誰もがよく認識していることでしょう。
このような状況によってファンド・ボードのガバナンス責任が大きく変わるわけではないかもしれませんが、サステナブル投資の発展の基礎と広がりの中にはいくつかの課題があり、当研究所ではこれら課題について更に深く掘り下げたいと考えました。
当研究所のレポートが、現在、ファンド・ボードが直面している、そうした課題に関して、何らかの見識をご提供し、ガバナンス強化への実践的な手順をご提供できることを願っております。
このレポートは、ファンドボードカウンシル(FBC)のブランドン・ホロウィッツさんに調査・執筆していただきました。
この機会をお借りして、ブランドンさんとファンドボードカウンシルのチームの皆さま、そして、この調査にご協力いただいた方々に謝意を示したいと思います。
ブランドンさんは、FBCのシニアアドバイザー兼非常任理事で、商品のガバナンス、価値評価、そして、監督を含めた投資ガバナンスを中心としたFBCのコンサルティング業務に携わっておられます。
では、ブランドンさん、レポートの調査結果の概要についてご説明いただきたく、よろしくお願いいたします。
ブランドン・ホロウィッツ (BH):
ヴェリーナさん、ありがとうございます。皆さま、こんにちは。本日のウェビナーでお話する機会をいただき、大変光栄に存じます。
本日は、ファンドボードカウンシル、皆さまには「FBC」といった方がおわかりいただきやすいかもしれませんが、「FBC」を代表してお話させていただきます。
私たちはファンド・ガバナンスの分野に特化した組織で、資産運用業界において優れた事例を発見した時には、そうしたやり方を奨励するとともに、FBCの支援を必要としている企業に対して、助言やコンサルティング、研修プログラムをご提供しております。
投資家に対しては、ファンド・ボードが価値を高め、透明性を改善し、より良いガバナンスを提供できるようになるための支援を積極的に行っております。
FBCはファンド・ガバナンスの複雑で微妙なニュアンスに精通しており、幅広いガバナンス構造の中で資産運用会社における、ファンド・ガバナンスが担う役割について深い見識を備えている機関です。
私自身がこの分野に関して興味を持った背景には、20年以上にわたって個人投資家および機関投資家の様々な投資関連業務に従事してきた経験があります。
具体的には、投資コンサルティング、資産運用および銀行業務などに加え、規制当局において個人投資家のウェルスマネジメント商品の監督にも携わりました。
お客さまの投資資金が目標達成に役立つ形で運用されるためのお手伝いをするのが私自身の、そして業界全体としての責務だと考えてまいりました。
そして、それは、提供する商品の名目と実体を一致させることから始まると考えています。
これは実務上簡単なことであるように聞こえますが、ご存知の通り、ここ数十年で投資ファンドの名称と目的はますます複雑になっています。
こうしたことから、商品の名称が実際のところ何を意味するのか、その意味については、資産運用業界にいる我々にとってすら見解の一致が難しくなっているのが現状です。
サステナブル投資では、おそらく、誰もがこうした難題の存在を認識しているはずです。
そして、サステナビリティの解釈は人によって様々です。
すなわち、個々のサステナブル投資ファンドについて、ファンドの投資家や、様々な介在者が抱く理解や期待感と、ファンドの提供者が組成時に実際に意図したものとが、かけ離れたものになる可能性があることを意味します。
これが、ファンドの提供者がグリーンウォッシングのそしりを受けるリスクにつながるわけです。
私たちがこの調査をすることになった動機の一つは、こうしたグリーンウォッシングのリスクへの対処です。
他の動機としては、サステナブル投資ファンドの驚異的な成長が挙げられます。
運用資産残高は過去3年で4倍以上に膨れ上がり、この分野における規制は増加し続けています。
今回の調査対象は、欧州およびアジア太平洋を含む6地域における個人投資家向けのサステナブル投資ファンドに絞りました。
個人投資家がプールドファンド(合同運用ファンド)を選択する理由は、プロフェッショナルな投資スキルにアクセスすると同時に、厳しいガバナンス要件など、規制が整備され、確立された投資商品のメリットを享受することです。
これら重要要件の一つとして、プールドファンドの運用会社は投資家の最善の利益のために行動しなくてはならない、ということがあります。
これには、サステナビリティ関連のコミットなど、ファンドが表明した目的を満たすべく、最善を尽くすということが含まれます。
ファンドの構造は地域ごとに異なっても、どのファンドも「すべての責任はファンドの最終的な説明責任を負うファンド・ボードにある」という点は同じです。この点は注目に値します。そこで、私たちの調査もファンド・ボードそのものに焦点を絞ることにしました。
「ファンド・ボードによる投資ファンドに対する監督の質を向上させるために何ができるか」を考えるにあたり、私たちは次の3つのポイントからアプローチしました。
1つは、サステナビリティ要因がファンド・ボードの責務にどう取り込まれているのかの考察、次に、サステナビリティを考慮する際にファンド・ボードが直面する課題の特定、そして、こうした課題への対処の一助となるような実務的なアクション項目の提案です。
調査方法としては、現在のファンド・ボードによる監督状況についての理解を深めるため、ファンド・ボードの理事とファンド・ボードの専門家の総勢25名に取材を行いました。
また、関連する規制上の要件については、既存の調査データを利用してデスクトップ・リサーチを行いました。
調査結果についてご説明いたします。
私たちの調査の着目点の一つは、「ファンドが投資家に対するコミットを果たしているかどうかについて、ファンド・ボードがどのように監督しているのか」、ということでした。
私たちが見出した最初の調査結果はとても単純な事実で、サステナビリティのコミットをファンドが確実に守るよう、ファンド・ボードがとるべき役割が明確ではない、ということでした。
私たちは、こうした課題に対処するためのアクション項目を複数挙げました。
その中には、ファンドがサステナブル投資方針を明確に示すように徹底すること、特に、そうした方針がファンドの目的の達成に役立つよう、ファンド・ボードが運用者のサステナビリティ評価に対するアプローチを理解し信頼できるようになることが含まれています。
そして、最後に、とても重要なこととして、サステナビリティを標ぼうしているファンドの実績のモニタリングでは、当然のことながら、サステナビリティを明確に考慮するように徹底する、ということです。
それでは規制に目を向けてみましょう。
ご存知の通り、サステナビリティ投資ファンドには、特にファンド名やラベル付け、分類、販売前と販売後に顧客に配布される資料にはどんなものがあるのかといった点について、詳細なルールとガイダンスが適用されています。
二つ目の主な調査結果は、こうした規制上の問題への対処状況について、相対的に知識が不足しているファンド・ボードが見られたということです。
規制にどのように対応しているのか認識していないファンド・ボードが存在することは、それらのボードが大きなリスクにさらされていることを意味します。
なぜならば、ファンド・ボードはコンプライアンス上のいかなる不備についても究極的な責任を負うことになるからです。
ファンド・ボードは、新しいファンドについて検討する時や、特に既存ファンドをサステナビリティ投資として作り変える時などに、サステナビリティの要件が商品のガバナンスの枠組みに正しく組み入れられていることを確認することにより、こうしたリスクに対処することができます。
また、特にサステナビリティ関連の報告要件は厳格化しており、ファンド関連文書および報告義務に対する管理が有効に機能しているかをファンド・ボードが確認するのも同様に重要です。
こうしたことから、必然的に、報告が必要になる「サステナビリティ・データ」に目が向くことになります。
皆さまの多くがおそらくお気づきのように、「サステナビリティのデータ」には、現在、多くの課題が存在しています。
従って、ファンド・ボードは、使用する「サステナビリティ・データ」の制約のみならず、どのようにデータの整合性の管理が行われているかをしっかり認識することがとても大切です。
規制上のリスクとデータのリスクについての調査により、この二つめの調査結果に至ったわけですが、私たちは、すぐに、サステナビリティの要件がファンド・ボードのリスク管理全般にインパクトを持つことを認識することになりました。
なぜならば、ファンドマネージャーは、ますます、サステナビリティ・リスク、特に気候変動リスクについてどのような評価を行ったかを企業レベルと商品レベルの両方で考慮し、開示しなければならなくなっているためです。
この分野に関する調査が、三つめの調査結果につながりました。それは、ポートフォリオ内においても、または、ファンドが一般的なリスク管理について考慮する際にも、サステナビリティ・リスクの管理方法を検討しないファンド・ボードが一部存在するという事実です。
私たちは、その対処方法としてアクション項目を複数挙げました。
具体的には、ファンド・ボードは、資産運用会社がポートフォリオマネジメントにおいてサステナビリティ・リスクをどのように組み込むかというだけでなく、組み入れた企業がリスク管理の枠組み、および、ガバナンスの一部として、サステナビリティ・リスクを正しく組み込むように徹底する必要があります。
こうすることにより、ファンド・ボードは組織におけるすべてのリスク管理機能がサステナビリティ関連リスクに実質的に対処することを徹底させることが可能になります。
これには、例えば、商品の名目と実体の一致を確認するなど、主な管理項目を評価するリスク管理部門の役割も含まれていることから、グリーンウォッシングのリスクへの対処にもつながることになります。
私たちが最後に注目した分野はファンド・ボード自体の構成でした。
私たちの調査からは、ファンド・ボードによって、サステナビリティ関連の規制に関する知識と理解、サステナブル投資の様々なアプローチに対する認識、サステナブル投資関連のツールや指標に関する適切な知識の面で、未だ初期段階にあることが判明しました。
私たちは、ファンド・ボードは比較的迅速にこうした問題を是正できると考えています。
例えば、ファンド・ボードの持つサステナブル投資ファンドの知識、スキル、経験を査定し、どの程度、不足しているのかを把握した上で、投資チーム、あるいは、その他のプロフェッショナルの力を借りて、研修会や勉強会をするなどの方法が考えられます。
ファンド・ボードによっては、サステナブル関連でその分野の専門家を雇うことが効果的な場合もあるでしょう。そして、そうした人材が独立社外ボード・メンバーであることが役立つ場合もあるかもしれません。
ここまでの数分の間に、多くのことを語ってきました。そのすべてを覚えていただかなくても、すべてレポートに記載されています。とても良くまとまったエグゼクティブ・サマリーがございますので、ぜひダウンロードしてください。
このレポートの内容が皆さまのファンド・ボードあるいは組織の他部署のお役に立つことを祈っております。
こうした重要なトピックについて一緒に研究させていただく機会を与えてくださったMUFGファースト・センティア サステナブル投資研究所に感謝の意を表したいと思います。
では、ヴェリーナさんにお返しします。ご清聴ありがとうございました。
VK: ブランドンさん、どうもありがとうございました。
本当にとても多くの内容をご報告いただきましたが、言い換えれば、この問題が実際にどれだけ複雑かを表していると言えるのではないでしょうか。
ではここで、パネリストの方々にディスカッションに加わっていただきます。
それぞれのパネリストの方が実務上の視点を少しずつ違う角度からお話してくださると思います。
まず、最初にパネリストの方々をご紹介させていただきます。
クレアさん、シーナさん、そして、ウィルさんです。
クレア・ウッドさんは、ファースト・センティア・インベスターズ(以下FSI)のプロダクト部門グローバルヘッドで、FSIの投資先企業や欧州における集団投資スキームでボード・メンバーも務めていらっしゃいます。資産運用業界で20年以上の経験をお持ちです。
シーナ・ゴードン-ハートさんは、ルクセンブルグのDirectors’ Office社のパートナーであり、資産運用業界の複数の取締役会の社外取締役として活躍していらっしゃいます。シーナさんのご専門は、規制、ガバナンス、そして、販売の分野です。
最後にご紹介するのは、ウィル・オウルトンさんです。ウィルさんは、FSIの責任投資部門のグローバルヘッドを務めておられます。サステナブル投資の分野で20年近くのご経験をお持ちで複数の投資アドバイザリーボードや委員会のメンバーを務めていらっしゃいます。
パネリストの皆さま、本日はご参加いただきありがとうございます。
順を追って皆さまにお尋ねしたい質問がございますが、Q&Aでも質問を受け付けています。
Q&Aについては、議論の内容を踏まえながら、その最後か、その途中で取り上げていきます。ご質問がありましたら、どうぞ、ご遠慮なくQ&Aボックスにてお知らせください。
ではまず、サステナブル投資の目覚ましい成長について振り返ってみたいと思います。
こうした急成長を牽引したのは何か、その意味するところは何か、そして、ファンド・ボードのディレクターにとっての課題は何か、ということです。
ウィルさん、この質問はウィルさんにさせていただいても宜しいでしょうか。
ウィル・オウルトン (WO):
もちろんです。ヴェリーナさん、ありがとうございます。
皆さま、こんにちは。 本日はご参加いただきありがとうございます。
ブランドンさん、本当に幅広い調査内容のサマリーをありがとうございます。
調査をまとめてくださったブランドンさんと同僚の方々に謝意を表したいと思います。
ブランドンさんは、過去3年間のサステナブル投資の成長は目覚ましいものがあったとおっしゃいました。しかし、成長自体はもっと長きにわたって継続しています。
ただ、大きな変化があったのは、EUのいわゆる「サステナブルファイナンスに関するアクション・プラン」の採択がきっかけだったように思います。
このアクションプランは複数の項目から構成されていますが、その内の一つがSFDRとして知られているサステナブル・ファイナンス開示規則で、これは2021年3月に施行されました。
それ以降、欧州全域において広範囲にわたるサステナブルファンド関連の動きがあり、SFDRと同じ様な規制が世界中の様々な地域で制定されました。
従って、SFDRはサステナブル投資に向けた民間資金流入の増大を促した、先駆的な規制の枠組みとして認識されています。
SFDRは複雑です。
導入時は、大混乱を生み出しましたが、欧州全域およびその他の地域のサステナブル投資の成長に大きな変化をもたらした重要な要因であったことは確かです。
SFDRについて、あまり良くご存じない方のために付け加えますと、これは金融商品を3つのカテゴリーに分類することを求めるもので、EU関係者の間では第6条、第8条、第9条が知られています。
こうした用語が初めての方も、これからは、特にサステナビリティ関連でよく耳にされることになるでしょう。
これらカテゴリー間の違いはと言うと、第6条は基本的なESG統合のアプローチの一種と言えましょう。責任投資原則(PRI)に馴染みがある方でしたら、第6条は本質的には投資プロセスに対して、それと同じようなレベルでESGを統合するものです。一方、取り組むべき課題や興味深い展開がみられるのがそれ以外の二つのカテゴリーです。
第8条ファンドは投資プロセスおよびファンドの目的において、環境もしくは社会的特性、あるいはその両方を促進するファンドで、こうした特徴がファンドのプロセスや目的と適合しているかどうか、モニターし報告する必要があります、それは法的文書で定められた義務であり、そうした商品の管理・運用プロセスの一部となります。
第9条ファンドはサステナブルな投資目的を持つファンドです。
さて、全体像を見るにあたって注意しなければならないことの一つに、この規制の根底には根本的な政策目的があるということが挙げられます。
そこには三つの重要なポイントがあります。
第一は、EUはパリ協定の気候変動抑制合意を満たさなくてはならないという点です。
従って、これは、現在、環境関連の開示要件に偏重したものとなっています。
第二は、EU圏による持続可能な開発目標(SDGs)の支持です。
第三は、ブランドンさんのお話の中でも触れられ、レポートにも言及があるグリーンウォッシングです。
グリーンウォッシングについては、後ほど議論することになると思います。
成長という点で申し上げますと、今年の半ば時点で、第8条および第9条ファンドがEU全域の運用資産残高の約50%を占めています。
とても短い期間でこうした成長がみられたのは驚くべきことです。
それだけではなく、規制が商品の開発に拍車をかけています。
確かに、現在は、ブランドンさんもおっしゃったように、第8条あるいは第9条ファンドの設定もしくは既存ファンドの作り変えの方向に偏りがみられます。
そこには、ある種の商業的な動機があります。
こうしたファンドの作り変えの広がりにより、作り変えの理論的根拠とプロセスの整合性ということがファンド・ボードにとって課題となっています。2022年の第2四半期だけでも、約700のファンドが第6条ファンドから第8条もしくは第9条ファンドに作り変えられました。
ファンドの監督という責務を遂行するにあたってファンド・ボードが直面している難題は、これが複雑かつ急展開している分野であり、過去2年間で驚くような速いペースの変化が見られているという点でしょう。
これほど広範囲にわたる開示関連の規則が適用されたことは、この業界でも前例がないと私は思います。
そして、SFDRにはさらに多くの要素が含まれていますが、本日はそれらについて話す時間はないでしょう。
しかし、そこに一定の曖昧さが加わってきます。
サステナブル投資は、規制により定義されてはいるものの、幅広い解釈の余地があります。
従って、そもそも曖昧な一連の定義を基にした資産運用会社による様々な解釈に対し、ファンド・ボードはある程度の信頼感を与え、監督をするという課題に直面します。
突き詰めると、こうした複雑さと変化の速さが規制と法令上のリスクをもたらしていることになります。
だからこそ、このトピックは、ファンド・ボードがこれまで以上に真剣に向き合わねばならない問題だと私は考えるわけです。
VK: ウィルさん、ありがとうございます。
ウィルさんの今のお話と先ほどのブランドンさんのお話を聞いておりますと、サステナブル投資は、ファンドの監督において、複数レベルの課題を提示しているように感じます。
ブランドンさんが少し触れておられましたが、今回の調査結果は、サステナブル投資ファンドの効果的な監督という点で、実のところスタート地点に立ったばかり、もしくは、まだまだやるべきことの多いファンド・ボードがあることを示唆しているように思います。
シーナさん、次の質問はシーナさんにお答えいただきたいと思います。
シーナさんが関わっていらっしゃるファンド・ボードでの経験に鑑みて、こうした評価は公正な評価と言えますか?
シーナ・ゴードン-ハート(SGH):
はい、公正な評価だと思います。
ご質問いただきありがとうございます。
ファンド・ボード間の能力には乖離があると思います。
それは疑う余地がないことです。
個々のファンド・ボードは、長い道のりの中で様々な段階にいると言っていいと思います。
なぜなら、多くの側面で、これがどの方向に向かっていくのか、我々もはっきりわかっているわけではないからです。
ウィルさんは曖昧さがあるとおっしゃいました。
それはある意味本当ですが、それと同時に、膨大な数の規定があり、現行レベルの規定に対処するだけでも大変だと感じているファンド・ボードが多いのもまた事実です。
公平を期して申し上げるならば、なんらかの形でサステナブルを標ぼうした資産がこれほどまでに急増しているという事実が、資産運用会社が本気でサステナビリティに取り組んでいる証であると私は考えています。
そして、欧州委員会よりも長くサステナビリティ投資に係わっている資産運用会社も多く存在すると言えます
サステナビリティの流れは政治から始まったものではなく、実際は市場が起源です。
ですから、資産運用業界全体で様々なレベルの能力があり、それがファンド・ボード間の能力の大きなばらつきに反映されているわけです。
私は、誰もがサステナビリティに取り組んでいると考えます。
しかし、課題に対処するためのリソースの欠如が問題になることもあり、与えられた時間も短いのだと思います。
この時間というのは、パリ協定の視点からの時間ではなく、実際にSFDRの要件を満たしていくことに対する時間のことです。
私はすべての要件を採択し、順応するために悪戦苦闘するファンド・ボードも見てきましたが、その一方で、こうした対応を極めて容易と感じるファンド・ボードも見てきました。
しかし、とても長い期間にわたり、サステナビリティおよびESGに取り組んできたファンド・ボードですら、これらの要件が膨大であると感じています。
実際、報告という形ですべてを首尾一貫した形でまとめるのは難題であり、現実に達成できることと政治家や政策立案者が期待していることとをいつでも区別できるとは限らないと思われます。
そこには溝があり、これから先、しばらくも、その溝は存在し続けるでしょう。
VK: シーナさん、ご自身のお考えを述べていただき、ありがとうございました。
皆さんのお話をお伺いしていますと、様々な定義が見えてきますし、投資アプローチの違いも見えてきます。
グリーンウォッシングの話や政策決定側の期待と資産運用業界の実態の間の違いという問題も浮かび上がってきました。
次の質問は再びウィルさんにお尋ねしたいと思います。
実際、グリーンウォッシングというのはどの程度大きな問題となっているのですか。
WO: そうですね、それは質問する相手次第で答えは変わってくると思いますが、現在、資産運用業界で注目を浴びていることは確かです。
たった今、お話があったように、大変短い期間にサステナブル投資は急速な成長を遂げました。これが新しい現象ではないことについては、私もシーナさんと完全に同意見です。
ESGの統合という分野は、既にとても長期間にわたって存在してきましたし、商品の種類は時間の経過とともに拡大してきました。
しかし、ここにきて大きな変化が起こりました。
そして、それは、規制に対して注目が集まったことが原動力となっています。
そうした成長に伴い、グリーンウォッシングの問題が出てきました。
基本的に、グリーンウォッシシングとは、商品や投資活動、投資方針で、虚偽の、あるいは根拠のないサステナビリティあるいはESGを主張する行為です。
グリーンウォッシングの公式な定義は存在していません。
それが良いのかどうかについては後ほど議論できればと思いますが、私自身は去年の3月以来、その事例を目にしております。
私がいつも思い出す事例としては、ある資産運用会社がSFDR導入直後に一種の公式表明を発表し、自分たちはサステナブル投資において長期間にわたり優れた実績を残していることから、第9条の分類を与えられたと述べた事例があります。
これは、グリーンウォッシングの一つの形態と言えると思います。
なぜならば、SFDRの分類は与えられるものではなく、その区分は資格や実績とも関係ありません。
これが規制当局の目にとまったわけです。
これは、金融行動監視機構、FCAにとっても欧州の規制当局にとっても優先課題の一つです。大変重視される事項なので、欧州委員会は規制当局にグリーンウォッシングに関する証拠を出すよう要請し、グリーンウォッシングへの対処手段があるのか、そして、実際に取り締まる権限があるのかを尋ねています。
規制当局がグリーンウォッシングについて懸念している理由の一つは、EUの政策目標です。グリーンウォッシングがはびこり、業界全体でサステナブル投資に対する信頼を損なうことになれば、EUの政策目標は達成できません。
現時点では、サステナブル投資に向かう資金流入が続き、政策目標が満たされているので、ある程度、満足な状態と言えますが、政策当局はグリーンウォッシングについて大変懸念しています。
グリーンウォッシングにより、SDGsの達成に向けた資本をサステナビリティ投資に回す金融システムの能力が損なわれる可能性があるからです。
そして、ファンド・ボードにとっては、特に最終顧客に金融商品を販売するという観点から、グリーンウォッシングは重大な懸念事項であると私は考えます。
グリーンウォッシングにより、商品販売業者にはある程度のオペレーショナル・リスクとリーガル・リスクが発生する可能性がでてきます。責任の所在がファンド・ボードにあるのですから、当然ファンド・ボードは更なる注意を払う必要が出てくるでしょう。
規制当局は、現在、開示の強化によってグリーンウォッシングに対応しています。
そして、繰り返しになりますが、シーナさんがおっしゃったように、これは複雑な問題で、それぞれのタイミングで何が求められているかを正確に理解するのは容易ではありません。
開示事項の中には任意のものもあれば義務のものもあり、資産運用業界は今も試行錯誤の最中です。
それに加えて、ブランドンさんがレポートで言及されていたESGデータの質に関する問題があります。そして、様々なひどい事態が一度に起こるという可能性もあります。
従って、ファンド・ボードの審議では、意図的なグリーンウォッシングと意図せざるグリーンウォッシングの区別を出来るようにすることが有用だと考えます。これら2つには違いがあります。
人間は間違いを起こすものです。また、販売促進やマーケティング活動、あるいは、ファンド関連のコミュニケーションが持つ意味合いについて十分に考えない場合もあります。
どういうことがグリーンウォッシングとなるのかについて、規制当局からの具体例を含むガイダンスがあれば大変有益ですし、歓迎すべきことと私は考えます。
VK: どうもありがとうございました。確かにこれは複雑な問題です。ブランドンさん、こうしたことは調査結果と一致していますか?また現時点でグリーンウォッシングはファンド・ボードで議論されておりますでしょうか。
BH: ヴェリーナさん、ありがとうございます。とても興味深い質問です。
取材した方々とのすべての議論でグリーンウォッシングは確かに意識されており、全員がそれをリスクとして認識していたと言っていいと思います。
しかし、もう少し掘り下げて、それはファンド・ボードが積極的に取り組んでいる問題か、というと、話はちょっと変わってきます。
全般的に、ファンド・ボードがこのリスクについて管理できているかというと、それには程遠いことは非常に明らかです。
実務の視点でいえば、それは執行幹部の仕事という見方がなされているとでも申しましょうか。一般的には、投資委員会やリスク委員会、もしくはその他の執行幹部が担当していることとして受け止められているようです。
それでも定義が非常にはっきりとしていて、確立している事項であれば、全くかまわないのです。
しかし、我々がこれに注目すべきだと考える理由の一つには、ウィルさんや私たちが指摘してきた、サステナビリティの解釈の多様性があります。
そして、企業はこの領域について確立された管理手法をもたず、実際のところ、具体的な管理手段を説明することもできていないのです。
一つだけ例外として、いくつもの第9条ファンドを持ち、それを抜かりなくコントロールしていたファンド・ボードがありました。
そのボードではファンドが名称通りのものであることを徹底すべく、理事は昼夜を問わず働き、ボードは多くの情報を収集していました。
しかし、これは私たちの取材では極めて例外的なケースでした。
正直申しまして、全般的な経営陣の情報不足やファンド・ボードでの議論不足には少しばかり驚きました。そして、このような状況がこのリサーチに価値があると考えた理由の一つであり、ファンド・ボードへの注意喚起と検討を提案したいと考えた理由でもあります。
執行幹部に全面的に依存し、どのような対処がなされているかについて質問もしない状態で、ファンド・ボードが有効に機能していると考えていては少しばかりリスクが高すぎるように思われます。
VK: ブランドンさん、ありがとうございます。
ファンド・ボードの理事としては、細部までマイクロマネジメントすることと、実際に有効な管理体制があること、それが執行幹部の責任であれば、ファンドが目的通りに運用されるよう徹底することとの間で、微妙なバランスが必要のようです。
次はシーナさんに質問したいと思います。
そうした細部までのマイクロマネジメントと監督とのバランスの取り方に関して、何か事例を教えていただけますでしょうか。
あるいは、所属されていらっしゃるファンド・ボードでは、まだ、そうしたバランスがとれていないところもありますか?
SGH: そうですね、実務上では様々な違いがあるかと思いますが、私が面白いなと感じたのは、ESGあるいはサステナビリティの文化があるファンド・ボードや資産運用グループでは、最初の段階からこうした問題への対処法や制度上の責務に関する取り組みについて、ファンド・ボードがより積極的に関与しているという点です。
おそらく、これはどちらかと言えば、結果論ではありますが、そうでない組織では、独立したファンド・ボードの理事は誰もがこうしたことについて問いかけていくべきでしょう。
理想的な状態は、こうした原則が組織の在り方自体に組み込まれていることです。
私が関与しているファンド・ボードの多くでは、現在、商品のガバナンス面から販売面に至るまでの規制上の要件を網羅したセミナープログラムが進行中で、ボード・メンバーによる事情把握の徹底を図っています。これは大変重要なことです。
後れを取っているファンド・ボードも追いつく必要があるでしょうが、最終的に望まれるのは、ESGが通常業務の一部となることです。
投資に際して、ESGの持つ、他とは異なる特徴について理解し、それをどのような形でファンド・ボード全体としての管理情報に組み込むことができるのかを学ぶことは誰にとっても必要なことです。
しかし、これに関する様々なアプローチがあるのは興味深いことです。
私が関与しているファンドグループの一部は、年2~3回、定期的に半日の研修プログラムを実施しています、これはボード・メンバーにとって非常に有益で意義があることだと思います。
おそらく、そこまでやらない組織もあるでしょうが、既に申し上げましたように、資産運用業界全体として、将来に向けて、ESGに取り組んでいることは間違いないように思いますので、最終的にはそうなるでしょう。
VK: とても興味深い見識を共有いただき、ありがとうございます。
先ほど触れましたが、資産運用会社レベルでの管理機能とプロセスについての議論をしたいと思います。
本件についてはクレアさんのお話を伺いたいと思います。
クレアさんは、商品部門のヘッドであり、実際に資産運用会社の実務家として、この問題に対処されているお立場です。資産運用会社の内部ガバナンス、あるいは、その他の管理手続きに関して、ご自身の経験、あるいは、目にされてきたことをお話しいただけますか。
クレア・ウッド (CW):
ヴェリーナさん、ありがとうございます。
私とは異なる領域でのシーナさんのご経験を大変興味深く伺っておりました。
私はFSIの具体的な事例についてお話したいと思います。
私どもでは、ESGおよびサステナビリティに対する取り組みがそれぞれの商品に明確に取り入れられていることを確認するため、現在、内部の商品ガバナンスの枠組みについて、あらゆる側面から見直しおよび検討を行っております。
その枠組みには三つの主要な領域があります。
もちろん、その1つは責任投資委員会で、こうした事項を主管し、規制環境の変化に対応して、規制上の観点から正しいことに確実に焦点を絞れるようにしています。
残り二つの領域の一つは、いわゆる商品ガバナンス委員会のようなもので、ファンドの提供開始やファンドの変更、ファンドの命名といったことについて承認する会議体です。
ESGおよびサステナビリティ要因が目に見える形でファンドに取り入れられていることを徹底するものです。
そして、最後に、ファンド提供開始後にファンド状況を監督する内部監督機能があります。
一例としまして、FSIにはグローバル・インベストメント・コミッティーというものがございます。
これは何年も前に設立され、これまで、運用実績、リスク・ポジショニング、流動性など、いわゆる投資委員会が注目すべきあらゆることをみてきました。
この一年ほどは、委員会の監督項目にサステナビリティ要件を明示的に追加し、検討するようになり、サステナビリティ関連事項もファンドに関する他のすべての指標同様、検討しています。
監督項目と並行した形で、ふさわしい人材を確保しておかなくてはなりません。
ESG関連について理解し、焦点を合わせて疑問を投げかけることを責任投資チームだけに委ねるわけにはいきません。
例えば、リスクチームも関連するものであれば、投資リスクチーム、コンプライアンスチームにもそうした能力を持つ人材が必要です。
ファンドの提供前および提供後の活動とリンクするガバナンスの枠組みとともに、これらすべてをまとめることにより、FSIではグリーンウォッシングを撲滅できると考えています。
VK: クレアさん、ありがとうございます。
皆さまのお話をお伺いしていると、ファンド・ボードのレベルでも資産運用会社のレベルでも、基本的にあらゆるレベルで様々なことが起こっているようです。クレアさん、資産運用会社サイドで起こっていることは、ファンド・ボードに関連しているということですね。
レポートでは、サステナビリティ・ファンドがあるべき姿で運用されているという確証をファンド・ボードが得るための管理情報について、提案、もしくは、そのアイデアを記載しています。クレアさんの経験では、ファンド・ボードから信頼を得る、または、信頼を与えるために特に有益かつ有効な管理情報の事例はありますか。
CW: ファンド・ボードへの報告すべてに関して言えることですが、詳細すぎる情報を与えるのと、ファンド・ボードが質問できるような情報を提供することとのバランスが重要だと思います。
ESGと気候変動に関して言えば、あまりに多くのデータと指標が存在しますので、そうしたバランスを正しくとることが極めて重要になってきます。
そして、シーナさんのおっしゃっていた、ファンド・ボードが理解できるように首尾一貫した報告をするという点についてですが、FSIでは、それに該当する領域がおそらく2つあるのではないかなと思います。
ウィルさんは、規制の中にはある種の曖昧さが残るものがあるとおっしゃいましたが、確かに規制当局によるサステナブル投資の公式定義は存在しません。
そこで、個々の資産運用会社は、自らが考えるところのサステナブル投資の定義を用いることになります。
ファンド・ボードはそうした異なる定義について知り、資産運用会社がサステナブル投資についてどのように定義しているか、そして、それが法規制とつじつまが合い、かつ、資産運用会社の内部慣習と一貫性があるかということを確認すべく、疑問を投げかけることができるようになる必要があります。
報告関連でもう一つ有効な領域は、特にSFDR関連で言えば、“Principal Adverse Sustainability Impacts(以下PASI。サステナビリティに対する主要な悪影響)”関連だと思います。
一般に、資産運用会社は自分たちが行っている良いことについて語るのは本当に上手です。
資産運用会社は自分たちのファンドによるプラスのインパクトの数々や自分たちの行っている素晴らしいことについて話したがるものです。
PASIデータは個別のファンドの実態について、非常に興味深いスポットライトを当てることになります。
こうした指標の多くは、明確な基準値を設けて優劣を判別するものではありませんが、例えば、「この第9条ファンドでこのデータがみられるのはなぜか」、「このパーセント比率のデータがあるのはなぜか」、「何に投資しているのか」、「どうしてこれで良いのか」、「なぜ問題がないと思うのか」など、ファンド・ボードとのある種の質の高い議論が求められます。
そして、そのレベルで疑問を呈することができるということが大切です。
規制環境が変化するにつれ、そうした厳密なプロセスを示すことが大変重要になってくると思います。
VK: クレアさん、ありがとうございます。
これまでの議論を要約させていただくならば、何度かおっしゃっていらっしゃいましたが、規制が急速に変化する中、目まぐるしい展開となっており、おそらく、すべてがある種、流動的な目標となっているようだ、ということでしょうか。
サステナブル投資について議論する場合に、ファンド・ボードに必要な専門知識は法規制の分野にとどまらないわけですね。指標とデータについても触れておられましたが、これらについてはブランドンさんやウィルさんも述べておられました。
異なる投資アプローチについて理解する、もしくは、資産運用会社のサステナブル投資に対する解釈がどうであるかについて理解することも重要なわけですね。
今までの議論を踏まえて、資産運用業界で長らくサステナビリティ関連のお仕事をされてきたウィルさんに再びお伺いしたく思います。
これまで議論してきた様々なことに精通し、ESGやサステナブル投資に関する十分な知識を蓄えるために、ファンド・ボードが実際にできることとは何でしょう。
WO: ヴェリーナさん、ありがとうございます。
これは、今回の調査の将来に関する部分の話かと思いますが、資産運用業界において、明らかに複雑化している領域に対して、ファンド・ボードが将来にわたって対応していける能力をどのようにして構築するかということですね。
課題の一つは、まさしく資産運用業界における人材確保、すなわち、投資関連の仕事をしていてESGの知識あるいは経験を持つ人材を確保するという問題です。
そうした人材に対する需要は膨大ですが、供給は限定的で、ファンド・ボードが雇い入れる独立理事の話ともなれば、なおさらです。
このように、対処しなくてはいけない問題が確かに存在するわけですが、今回の議論の観点からいえば、検討すべき点は3つあります。
一つは研修関連です。
私は明確に定義された研修スケジュールが必要で、研修には、最低限の網羅するべき事項があると考えています。
その一つは気候変動リスクで、主要な指標は何で、気候変動リスクを評価するにあたって、そうした指標をどう解釈するべきか、ということが含まれます。
シナリオ分析の問題も含めるべきでしょう。
英国の年金スキームにおいては、気候変動リスク関連の法律があり、三年毎に対応が求められています。
多くの業者が顧客向けにサービスを提供しています。
従って、それら法律の理解が最低限の要件となります。
クレアさんが触れておられたPASIのコンセプトについてですが、これはEUの制度で義務付けられているものです。
他の地域でも同様の要件がみられるようになるでしょう。
ファンド・ボードがファンドのこうした悪影響の側面について理解することは、大変有益です。
サステナブル投資の目的に対して著しい害を及ぼさない“Do no significant harm”という概念についても理解が必要です。
規制になぜそれが含まれているのか、その意図を理解し、開示情報とどのようなデータが用いられたかを綿密に調べるという観点からも、これは注目すべき領域です。
同様に、業界で起こると予想される規制の変化について全体的なロードマップを作成し、様々な変化が実際に起こった時にファンド・ボードが対応できるよう準備するのも有用でしょう。
もう一つ重要だと私が考えるのは、人材採用のプロセスです。
ファンド・ボードが人材を採用する際には、特に独立理事に対しては、一定水準のESGに関する意識を持っていることを採用基準の一部として期待する、あるいは要求することが賢明だと考えます。
この分野の専門知識を持った人材を見つけるのは大変難しいため、専門性を要求するわけではありません。
この分野に関する一定水準の知識と問題意識を持った人材が求められており、この資質は重要で今後需要が伸びることをこの業界の採用担当者に伝えることが大切でしょう。
最後に挙げられるのが、年金受託でみられるような、ある種の能力証明プログラムです。
願わくは、そう遠くない将来において、そのようなスキームが独立理事候補の人材特定および採用に役立つ時がくると考えています。
そうした資格があれば、候補者が様々な問題に関して一定水準の知識と意識を持ち合わせていることをファンド・ボードや採用エージェントがわかるようになるでしょう。
この点については、是非、シーナさんのお考えをお聞きしたいところです。
シーナさんは全く異なるご意見をお持ちかもしれません。
私は、独立理事に専門性が必要だとは思いませんが、一定水準の知識および能力は確かに必要だと思っています。
私の意見がシーナさんに一蹴されるのか、一部は同意いただけるのか確認できればと思います。
SGH: とても興味深いですね。
ウィルさんのお言葉に素直に応じるとしましたら、ファンド・ボードに対して、ESGの専門性を持った人材を備えるよう求めることは、おそらく過大な要求でしょう。
なぜなら、ウィルさんがおっしゃったように、私たちは社会、環境、ガバナンスといった、非常に広範囲にわたる問題に取り組んでいるからです。
幅広い専門知識を持つ人もおり、もちろん、こうした問題についてすべて認識していることは重要です。
それはウィルさんもおっしゃっておられましたね。
研修は重要だと思います。
私はスポンサーやおそらく資産運用会社の側だけではなく、独立理事も研修を受けることに関心を持つべきだと考えます。
世の中には多くの有益な資格があり、ESGおよびサステナビリティの要求の理解に役立つ教育課程が数多く存在します。
私はそれらすべてに大賛成です。
独立理事というのは、今や一つの専門職です。
この仕事は、かなり以前は楽な仕事だったかもしれませんが、もはやそうではなく、自ら情報に通じておくことがプロの能力として必要なのです。
それが重要なのです。
しかし、ファンド・ボードが集団思考を避ける必要があることを念頭に置くこともまた大変重要です。
サステナビリティは広範囲にわたる非常に重要な目標がありますが、独立理事は建設的な疑問を投げかけるために存在しており、それがプロセスの一部となる必要があるのです。
ある分野での専門性が高すぎると、独立理事の疑問を投げかけるという特性が損なわれてしまう可能性があります。
ウィルさんの意見に反対はしません。
違うところがあるとすれば、強調すべきところが若干シフトする必要があると感じている部分だけでしょうか。
私は、独立理事は積極的に自ら関与し、様々な重要な質問を投げかけ、究極的な結果に興味を持つ人材であるべきだと思います。
そして、それが資産運用業界にとって、また、事実上の最終受益者である私たちのお客さまにとっても、投資内容の改善につながると考えます。
VK:どうもありがとうございます。
時間も迫っておりますが、
残り時間は10分ぐらいありますので、ウェビナーの参加者の方々からのご質問を2,3とりあげてみたいと思います。
最初のご質問は、ブランドンさんにお答えいただけるのではないかと思います。
「ファンド・ボードは、チェック機能の中で確証を得る方法を検討しなくてはならないように聞こえました。執行幹部とボード・メンバーが必要な確証を得るためにどのような協力をしていけば良いでしょうか」
BH:これは、確かに私が取材で最初に尋ねた質問の一つです。
私が取材したのは21機関の25人になるわけですが、全員に対して同じ質問をしました。
サステナビリティへの対処あるいはグリーンウォッシングの回避のための管理機能に対するテストがありますか?それは向こう12~18ヵ月間のコンプライアンス・モニタリング計画に含まれていますか?それは所属される組織における詳細チェック計画あるいは内部監査計画の一環ですか?といったものです。
そして、取材したほぼ全員からの回答は「いいえ」でしたが、
「でも、ブランドンさん、それは本当にいいアイデアですね。きっとそうあるべきでしょう」という反応を得ました。
つまり、ファンド・ボードは一線のディフェンス(防御)を信頼しており、一線のリスク管理チーム、パフォーマンスモニタリングチームが自社ブランドをコントロールできているとみているようです。
私がとても好きなロシアのことわざに「信ぜよ、されど検証せよ」というものがあります。
歴史を知っている人はこの言葉がどこからきたかを覚えていらっしゃるでしょう。
あなたの一線を信頼するのはもちろん構わないけれども、十分に検証し、一線の行動が想定通りであるという確証を得なさい、ということです。
レポートをご覧いただきますと28ページに小さな表がございます。
押し付けがましいと思われるかもしれませんが、改善策の提案をさせていただいています。一線のチームはすべての要件が満たされているかどうかをチェックするのに必要な種類の管理機能を整備する必要があります。
それには、個々の投資チームが、サステナビリティが適切に統合されていると主張する場合でも、どのようにして統合されているかをチェックする等の単純なことも含みます。
そして定期的に、おそらくは年次で、個々の運用チームにどのように統合しているのかを尋ね、表示通りのことを実際に行っているかを立証できるよう徹底するのです。
また、マーケティング資料や目論見書、その他の資料のすべての文言で述べている内容が正当化できるように立証することも、一線の仕事に含まれます。
そして、もちろん、二線の役割はこうした一線のコントロールが有効に機能しているかをチェックすることです。そして三線は、追加的なレベルの確証を提供します。
従って、私たちが皆さまに一つお伝えするとすれば、もし、こうしたチェック機能が内部統制の三つのディフェンスラインで検討されていない、あるいは、向こう12~18ヵ月の管理機能のテスト計画に含まれていない場合は、これらの管理機能のテストをしないことが自社のリスク許容度の範囲内なのかどうか、考えた方が良いかもしれないということです。
VK: ブランドンさん、ありがとうございます。
もう一つのご質問に移りましょう。
「積極的すぎるマーケティング部門がESG面でのアウトパフォームを宣伝し、後になってこれが誇張だったと判明した場合に備え、ファンド・ボードはどのようにして組織を守ったら良いか」というものです。
SGH:その質問にはまず私がお答えしましょう。
これはよくある問題で、欧州委員会が金融業界に対し、第8条および第9条はラベルではないと釘をさしたのは皆さまもご存知でしょう。
でも、第8条や第9条をラベルでないと考えるのは容易ではありません。
私たちは、自分たちがしていることを簡単に説明する用語が必要です。第8条や第9条をラベルではないというのは少し厳しすぎると私は思います。
もちろん、究極的には、マーケティング部門のする約束はいつでも良いことばかりですが、それはパフォーマンス全体に対して言えることで、サステナビリティに限ったことではありません。
根拠のない、正当化できないサステナビリティを主張し、グリーンウォッシングのリスクを高めることはもちろん避けるべきです。
ファンド・ボードはそうした事態にならないように用心深く監督する必要があります。これは目論見書や契約前文書をはじめ、すべての文書に関わることです。KIID(主要投資家情報書類)や近い将来にはPRIIP(パッケージ型リテール投資商品および保険ベース投資商品)もその一部になるとみられ、組織の全員がそれらの管理に係わることになるでしょう。
一つの組織に属する人たちの道のりはそれぞれ異なっても、全員が同時に同じ道を通る必要があります。それはマーケティング部門も同じです。私はマーケティング部門がこのプロセスに係わる必要があると考えます。
マーケティング部門も積極的に関与し、組織にとってもサステナブルな方法で顧客の要望に応えてほしいと考えます。
その実現に向けて、ファンド・ボードと執行幹部は協力しあえると私は考えています。
クレアさんはその点についてはどうお考えですか。
CW: 同じ意見です。
うまくまとめてくださったと思います。
マーケティング資料の徹底は一般的にいつも骨の折れる仕事です。
資産運用会社にいる者として社内を見てみますと、募集の文書や目論見書についてのガバナンス管理能力は一般的に大変高いと思います。
マーケティングは組織外の領域に多くのチャネルを通じて出ていくので、彼らのコントロールは大変難しいですね。
優しい言い方をすれば、彼らは、運用会社や商品に関して行き過ぎた情熱をもって売り込もうとします。
ですから、常に課題は残ります。先ほど申し上げましたように、私たちは内部ガバナンスの枠組みの見直しをしていますが、マーケティング資料の監督を確りとそのプロセスに組み込む予定です。
なぜならば、それは大変重要で内包するリスクが大きいので、やり方を間違えたりミスを犯したりしないよう徹底したいからです。
WO: 最後にもう一言加えさせていただくならば、EUのシステムは年次のPASIデータ実績開示要件を設けたという点で、ある意味、極めて賢明だと考えます。
それがなぜ積極的すぎるマーケティング文言から組織を守るのに役立つかというと、規則の一部として、そのデータを開示しなくてはならず、隠すことはできないからです。
積極的すぎるマーケティング担当者が「当社のこのファンドの気候関連パフォーマンスは素晴らしく、傑出しています」と述べていても、そのファンドの炭素排出データや実績が実際は悪化していれば、それを隠す方法はないわけです。
その情報は規則で義務付けられ、公開されていますから。
従って、SFDRには、言わば、それを防ぐためのチェック・アンド・バランス機能が極めて賢明な形で組み込まれています。
では、それは実現するのでしょうか。
それについては、来年初以降に提供される商品から完全な報告が求められているので、来年以降、判明するでしょう。
SFDRにより、ESGおよびサステナビリティの実績に関する情報の“津波”がマーケットに押し寄せることになるでしょう。情報を紐解き、解釈するのは本当に難しいでしょうが、それこそがその種の目的に利用される要因の一つでしょう。
VK: 皆さま、ありがとうございます。
本日のウェビナーにご協力いただき、感謝いたします。
明らかに、サステナブル投資は今後も継続し、議論されていくと思われます。
課題および本日の議論の詳細をご覧になりたい方は、当研究所のウェブサイトから入手可能なレポートをご覧ください。
